引退を考えはじめてから、決めるまでの時間。
その時間を、誰にも話せないまま、ひとりで過ごしている人もいるのではないでしょうか。
今日は、その「悩んでいる時間」の話を書きます。
ある選手の引退表明の中に、「悩みました」という言葉がありました。
その言葉を手がかりに、一緒に考えてみます。
目次
- 悩んでいる時間は、誰にも見えない
- 悩むのは、本気で向き合ってきたからかもしれない
- ある引退表明の中にあった、「悩みました」という言葉
- 悩んでいる間に、頭の中で起きていること
- 夜のメモに、ふたつだけ書いてみる
- 悩んだ自分に、「おつかれさま」を
❶ 悩んでいる時間は、誰にも見えない
こんな場面があるとします。
いつもどおり、練習に行く。
いつもどおり、挨拶をして、体を動かす。
周りから見れば、何も変わらない一日です。
でも、頭の中では、別のことを考えている。
引退、という言葉を、浮かべては消す。
消したはずなのに、帰り道で、また浮かんでくる。
夜、布団の中で、天井を見ながら。
「まだやれるんじゃないか」という気持ちと、「もう十分やった」という気持ちが、交互にやってくる。
誰かに話したいけれど、誰に話せばいいか分からない。
話したら、本当に終わってしまいそうで、怖い。
だから、結局、何も言わないまま、また次の日になる。
もちろん、感じ方は人によって違います。
あくまで、ひとつの「たとえば」です。
悩んでいる時間は、外から見えにくいものですよね。
❷ 悩むのは、本気で向き合ってきたからかもしれない
先に言っておくと、悩んでいる自分を、責める必要はありません。
ここからは、私の見方ですが、引退を前にして悩むのは、それだけ長く、真剣に向き合ってきたから、という面があるのかもしれません。
どうでもいいことなら、そもそも悩まないのかもしれません。
「いつまでも決められない自分は、弱いんじゃないか」と、感じる人もいるでしょう。
でも、決められないことと、弱いことは、別のことです。
いや、「別のこと」と言い切るのは、少し乱暴かもしれません。
感じ方は、人によって違いますから。
大きな決断の前で、迷うのは、自然なことではないでしょうか。
それに、早く決めなくてはいけない、という決まりもありません。
もちろん、チームの事情や、契約の時期など、現実に決めなくてはならない時が来ることもあります。
その時までは、悩んでいてもいいと思っています。
悩んでいるあいだは、周りの声が、ありがたいのに、少し重く感じることもあるかもしれません。
「頑張れ」と言われても、「お疲れさま」と言われても、どちらも、まだ早い気がして。
そんなときは、返事をしなくてもかまいません。
❸ ある引退表明の中にあった、「悩みました」という言葉
ゴルフのアン・ソンジュ選手(39歳)が、2026年10月13日に、自分のインスタグラムで、引退を発表しました。
最後の試合は、10月22日から25日に、兵庫県で開かれる「NOBUTA GROUP マスターズGCレディース」です。
日本ツアーで通算28勝、賞金女王には4度、輝いた選手です
(出典:ゴルフのニュース、Yahoo!ニュース、10月14日配信)。 https://news.yahoo.co.jp/articles/1bd447bef11866e4b8735f54a5c88cc6e9142ecd
記事によると、本人は、「実はかなり悩みました」と切り出したそうです。
最後の試合に出ると、現役生活が完全に終わるように感じたこと。
以前のようなプレーができるか、不安だったこと。
それでも、第二の故郷である日本のファンに、全力を尽くす姿を見せたいと考えて、出場を決めた。
記事は、そう伝えています。
一方で、引退を決めた具体的な理由や、時期は、記事には書かれていませんでした。
なので、ここでは、触れません。
本人の気持ちを、私が推測して書くことも、しません。
ここからは、私の見方です。
私が目を留めたのは、「悩んだ」ということと、「最後の場所を、どう迎えるか」を選んだことが、同じ記事の中に、並んで書かれていたことです。
悩んだ時間が、その選択と、どうつながっているのか。
それは、本人にしか分かりません。
ただ、悩むことは、決して、特別な人だけのことではない。
そう感じた、というだけです。
もうひとつ。
「悩みました」と、自分の言葉で、人に伝える。
それだけでも、簡単なことではないように、私には思えます。
悩みを、そのまま言葉にするのには、勇気がいることのように思えるからです。
❹ 悩んでいる間に、頭の中で起きていること
料理の「下ごしらえ」を、思い浮かべてみてください。
野菜を洗って、切って、下ゆでをする。
その時間は、完成したお皿には、写りません。
食べる人も、下ごしらえの様子は、見ていません。
でも、その時間があるから、味が決まる面もある。
下ごしらえの時間を、「何もしていない時間」と呼ぶ人は、あまりいないのではないでしょうか。
悩んでいる時間も、少し、似ているのかもしれません。
というより、似ていてほしい、という私の願いに近いかもしれません。
これは、私の見方です。
悩んでいる間、頭の中では、いろいろなことを、行き来しているのかもしれません。
続けたい気持ち。 終わらせたい気持ち。
怖いこと。
これだけは残したい、と思うこと。
そうしたものを、少しずつ、自分の言葉にしている時間、とも言えるのではないでしょうか。
ここで、ある調査結果も紹介します。
ビズメイツ株式会社の「スポーツ選手のセカンドキャリアに関する意識調査」です。
(出典:PR TIMES、2024年7月25日発表)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000168.000006561.html
対象は、プロ・セミプロ、社会人のスポーツ選手111名で、2024年7月のインターネット調査です。
競技引退後のキャリアについて「悩んだことがある」と答えた人は、90.1%でした。
111名は、すべての選手を代表する人数ではありません。
今から2年ほど前の調査でもあります。
それでも、この調査の中では、悩んだことがある人が一定数いた。
悩むことは、珍しいことではない、と考えるための、一つの材料にはなりそうです。
ただ、ひとつ大事なことだと思うことで、 悩んだ時間が辛いだけで終わった、と感じる人もいるでしょう。
無駄ではなかった」と思える日が、来るかどうかは、私にも分かりません。 無理に「あの時間には意味があった」と、思おうとしなくていいんです。
思える日が来たら、そのときに、ゆっくり思えばいい。
思えないままでも、悩んだ自分を責める理由には、ならないはずです。
このタイトルは、そんな気持ちで、付けました。

❺ 夜のメモに、ふたつだけ書いてみる
悩んでいる最中の人に、ひとつだけ、小さな提案があります。 夜、寝る前に、ノートか、スマホのメモに、ふたつだけ書いてみませんか。
ひとつ目。 この一週間で、引退のことを、いちばん多く考えたのは、どんなことでしたか。
ふたつ目。 考えている間に、ほんの少しだけ、分かったことはありますか。
夜は、気持ちが大きく感じられやすい時間かもしれません。 だから、書くのも、短くていいんです。 一言だけでも、立派なメモです。
「分からない」と書いてもいいです。 白紙のまま、閉じる夜があっても、かまいません。
書いてみると、頭の中でぐるぐる回っていたものが、少し、形になるかもしれません。 それは、答えではありません。 でも、あとで読み返したとき、「あのとき、こんなことを考えていたんだな」と、自分の時間を、思い出す手がかりになるかもしれません。
❻ 悩んだ自分に、「おつかれさま」を
私もキャリア支援をしているときに、悩んでいる最中でも、決めたあとでも、悩んだ時間の話を聞かせてもらえたら嬉しいです。
うまく話せなくても、整っていなくても、そのまま聞きます。
引退を決めるまでの時間には、その人にしか分からない重さがあります。
決めたあとの時間にも、また別の重さがあるはずです。
その話も、いつか是非、聞かせてください。

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