「将来のことを考えると、なんだか競技に申し訳ない気がして」——アスリートのその感覚、決して間違いじゃない。
でも今日は、その罪悪感をそっと手放してほしくて、この記事を書きました。
目次
- 「今は競技だけを考えていたい」——その気持ちを私は全力で肯定します
- 「競技だけ考えたい」と思う気持ちの正体——それは真剣さの証拠です
- 将来を考えることは、競技への「裏切り」じゃない——むしろ逆でした
- 「将来を考える時間」は、どれくらい取ればいいのか
- 「今が一番大事」だからこそ、少しだけ先を見てほしい
- 競技に全力を注ぐアスリートへ——競技を大切にしているからこそ、将来を考えてほしい
1.「今は競技だけを考えていたい」——その気持ちを私は全力で肯定します
正直に言います。
「引退後のことを考えてください」と言うのは、キャリアコンサルタントとして簡単なことです。
でも私は、その言葉を安易に言いたくない。
なぜなら、競技に全力を注いでいるアスリートが「将来のことなんて今は考えられない」と感じるのは、それだけ本気で競技と向き合っている証拠だからです。
将来を考えることへの罪悪感——それはメンタルの弱さでも、無責任さでもありません。今この瞬間の競技を大切にしたいという、真剣さの裏返しです。
ただ、支援を続けてきた中で、一つ気になることがあります。
将来を少しだけ考えられる選手のほうが、現役中も安定しているケースが多い。
これは、私が現場で何度も感じてきた、正直な実感です。今日は、その話をさせてください。
2.「競技だけ考えたい」と思う気持ちの正体——それは真剣さの証拠です
アスリートのみなさんは、将来のことを考えようとすると、こんな感覚が湧いてきませんか。
「引退を考えるなんて、まだ諦めていないのに」
「将来に目を向けると、今の競技への集中が乱れる気がする」
「監督やチームメイトに、もう終わりにしようとしていると思われたくない」
——こうした感情は、多くのアスリートが抱えているのではないでしょうか。
これらは決して弱さではありません。
むしろ、競技に対してそれだけ誠実に向き合ってきたからこそ生まれる感情です。
でも、ここに一つ知っておいてほしいことがあります。
「将来を考える=今の競技を諦める」というのは、思い込みです。
この二つは、本来まったく矛盾しません。
競技に本気で向き合っているからこそ、将来のことが頭をよぎる。
その感覚が出てきたとき、それは「逃げたい気持ち」ではなく「真剣に生きている証拠」だと私は思っています。
将来を考えることへの罪悪感を手放すことが、実は今の競技をもっと自由にする第一歩になります。
3. 将来を考えることは、競技への「裏切り」じゃない——むしろ逆でした
ここが今日一番、アスリートにお伝えしたいことです。
将来を考えることが、現役中のパフォーマンスにプラスになる——これは直感に反するように聞こえるかもしれません。
でも、スポーツ心理学の世界では、この逆説を支持する考え方があります。
スポーツ心理学者のスタンブロワ(Stambulova, 2003)は、アスリートのキャリア移行に関する研究の中で、引退後への不安を「見える化」することがストレスの緩衝材になると指摘しています。
つまり、漠然と不安を抱えたまま競技に向かうより、将来を少し考えて「なんとかなる」という感覚を持てたほうが、精神的な安定度が上がるということです。
考えてみれば、当然かもしれません。
「引退後、どうなるんだろう」という、答えの出ない不安を頭の片隅に抱えたまま試合に臨む。
その状態と、
「引退後も、自分にはやれることがある」という安心感を持って試合に臨む状態——どちらが競技に集中できるでしょうか。
将来を少し考えることで「引退後への漠然とした恐怖」が小さくなり、今この瞬間の競技にもっと全力を注げるようになる。
将来を考えることは「競技からの逃げ」ではなく、競技への集中を深めるための投資だと私は感じています。
4. 「将来を考える時間」は、どれくらい取ればいいのか
「わかった。でも、いつ、どれくらい考えればいいのか」——そう感じているアスリートに、是非お伝えしたいです。
多くのことを考えなくていいです。
週に15分、「引退後にどんな仕事が気になるか」をメモするだけで十分です。年に一度、キャリアコンサルタントや先輩アスリートに話を聞く機会を作るだけでも、大きく変わります。
引退の2年前から本格的に動き始めることができれば、焦らずに準備できるのではないでしょうか。
「考えること」と「すぐに行動すること」は別の話です。
今日から履歴書を書く必要も、就職活動を始める必要もありません。
ただ「こういう仕事が気になる」「こんな生き方をしてみたい」という感覚を、心のどこかに持っておくだけでOKです。
将来を考える時間は、競技の時間を削るものではありません。
練習の合間、移動中、試合後の静かな夜——そういう時間に、ふと考えてみるだけで十分です。
その小さな積み重ねが、引退後の自分を静かに、でも確実に支えてくれます。

5.「今が一番大事」だからこそ、少しだけ先を見てほしい
今の競技を大切にしたい。その気持ちは、当然だと思います。
でも「今を全力で生きること」と「将来を少し考えること」は、矛盾しません。
むしろ、今を本気で生きているアスリートだからこそ、将来を考える価値があります。
引退したアスリートとの対話の中で感じて、一つだけ確信していることがあります。
将来を少し考えていた選手は、引退後に後悔をしない
ということです。
逆に、「もっと早く考えておけばよかった」という声は、何度も聞いてきました。
その差はわずか。
週に15分、月に一度の対話、年に一度の振り返り——それだけで、引退後の景色がまったく違ってきます。
今の競技への集中を大切にしながら、その片隅に「将来の自分」への小さな問いを置いておく。
それだけでいいですし、非常に重要だと感じています。
6. 競技に全力を注ぐアスリートへ——競技を大切にしているからこそ、将来を考えてほしい
最後に。
私がアスリートのセカンドキャリア支援をしているのは、「引退後に後悔してほしくない」という思いからです。
でも同時に、現役中の競技人生も、心から大切にしてほしいと思っています。
将来を考えることへの罪悪感があるとすれば、もう手放してほしいです。
それは競技への裏切りではなく、アスリート自身の人生全体を大切にしようとする、誠実な行動です。
今日の練習が終わったあと、5分だけでも内省をしてみてください。
「引退後の自分は、どんなことをしていたいだろう?」
答えが出なくても、その問いを持ち始めたその瞬間から、あなたのセカンドキャリアは、もう始まっています。
これからも、アスリートの背中をそっと押せる記事を届けていきます。
また次の記事も是非、読んでいただけますと嬉しいです。


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