引退後のことを考えたとき、「やりたいことが見つからない」と足が止まりそうになる選手は少なくありません。
今回は、その悩みの奥にある共通の思考パターンを整理しながら、競技の先にある自分らしい道を見つけるヒントを考えてみたいと思います。
目次
- 「やりたいことがない」のではなく、「見つけ方を教わらないままここまで来た」だけかもしれない
- いま日本でも、アスリートのキャリア支援は“引退後”ではなく“現役中”から考える流れになっている
- 【思考パターン①】まず最初に多いのは、「やりたいことは、すぐ見つかるはず」と思ってしまうこと
- 【思考パターン②】次によくあるのは、「競技以外に目を向けるのは悪いことだ」と思ってしまうこと
- 【思考パターン③】「できること」ではなく「好きなこと」だけで探そうとしてしまう
- 「やりたいことがない」ときこそ、自分の未来を考え直すチャンス
1. 「やりたいことがない」のではなく、「見つけ方を教わらないままここまで来た」だけかもしれない
競技を続けていると、ふと将来のことが頭をよぎる瞬間がありませんか。
「引退後、自分は何をして生きていくのだろう」
セカンドキャリアを考えたほうがいいのは分かっている。
でも、いざ考えようとすると、何をしたいのかが浮かばない。
そうなると、少し焦る。
周りは何か見えているように感じるのに、自分の中にははっきりした答えがない。
そんな感覚になることはありませんか。
私は、アスリートのデュアルキャリアや引退後のキャリア支援に関わる中で、この悩みはとても自然なものだと感じています。
なぜなら、競技に本気で向き合ってきたアスリートほど、目の前の試合や練習、コンディション調整に全力を注いできたからです。
その時間は、決して遠回りではありません。
ただ、そのぶんだけ、将来の選択肢の見つけ方を学ぶ機会が少なかった。
だから「やりたいことがない」と感じるのは、意欲が足りないからではなく、探し方を知らないまま、ここまで走ってきただけなのかもしれません。
これは普通のことではないでしょうか。
2. いま日本でも、アスリートのキャリア支援は“引退後”ではなく“現役中”から考える流れになっている
少し前までは、引退後のことを現役中に考えるのは、どこか後ろめたいものとして受け取られやすかったかもしれません。
「プロであれば競技に集中するべき!」
でも今は、その流れが少しずつ変わってきています。
アスリートのキャリア形成は、引退してから慌てて考えるものではなく、現役中から少しずつ育てていくものだという考え方が広がっています。
これは、非常に重要で意味のある変化です。
なぜなら、引退後の不安を小さくするために必要なのは、特別な才能ではなく、早い段階から視野を広げておくことだからです。
競技に集中しながらでも、外の世界を少し知ることはできます。
企業で働く人の話を聞くこともできる。
地域でスポーツに関わる道を知ることもできる。
教育、福祉、スポーツビジネス、発信、支援職など、自分の経験が生きる場所は、思っているよりずっと広いのです。
ここを知っているだけでも、心の持ち方は変わります。
将来を決め切れていなくてもいい。
でも、将来を考え始めることはできる。
この感覚は、現役アスリートにとって大きな支えになるはずです。

3. 【思考パターン①】
まず最初に多いのは、「やりたいことは、すぐ見つかるはず」と思ってしまうこと
ここで、最初にお伝えしたいことがあります。
引退後に「やりたいことがない」と感じる選手の多くは、何も考えていないわけではありません。
むしろ真剣に考えているからこそ、見つからない自分に焦ってしまうことがあります。
その背景にあるのが、
「やりたいことは、最初からはっきり見えているものだ」
という思い込みです。
競技の世界では、目標が比較的わかりやすいものです。
試合に出る。
結果を出す。
レギュラーをつかむ。
上を目指す。
何を目指すかが見えやすいからこそ、努力の方向も定めやすい。
だから引退後の人生を考えるときにも、
「次に進む道も、すぐに明確になるはずだ」
と考えてしまいやすいのだと思います。
でも、実際のキャリアはそう単純ではありません。
最初からはっきり見える人ばかりではなく、
いろいろな人の話を聞いたり、経験してみたり、少しずつ外の世界に触れる中で、だんだん輪郭が見えてくることの方が多いです。
それなのに、答えがすぐ出ないと、
「自分はだめなのではないか」
「何もやりたいことがないなんてまずいのではないか」
と、自分を追い込んでしまう。
でも本当は、やりたいことがまだ見えていないのは、遅れているからでは、決してありません。
それだけ競技に集中してきたということでもあります。
だからこそ、ここで必要なのは焦ることではなく、
“すぐに答えを出せない自分も自然だ”と 認めること
が大事なのではないでしょうか。
4. 【思考パターン②】
次によくあるのは、「競技以外に目を向けるのは悪いことだ」と思ってしまうこと
二つ目は、わかりやすく言いますと、
競技以外のことに関心を向けるのは、競技への集中を欠くことだと感じてしまうことです。
これは、本気で競技に向き合ってきた人ほど持ちやすい感覚です。
他のことを考える時間があるなら、もっと練習したほうがいい。
外の世界に興味を持つのは、どこか逃げのように見える。
そんなふうに、自分で自分を厳しく縛ってしまうことがあります。
でも、私はこれは違うと思っています。
競技以外の世界を知ることは、競技を裏切ることではありません。
むしろ、引退後の不安をやわらげ、現役中の気持ちを整えることにもつながります。
自分には競技の先にも道がある。
そう思えるだけで、必要以上に将来を怖がらずにすむからです。
未来が真っ暗に見える状態で競技を続けるのと、少しでも選択肢が見えている状態で競技を続けるのとでは、心の安定が違います。
デュアルキャリアは、人生全体を大切にするための重要な視点です。
そのことを、もっと多くの現役アスリートに伝えていきたいと、私はいつも思っています。

5. 【思考パターン③】
「できること」ではなく「好きなこと」だけで探そうとしてしまう
三つ目は、
やりたいことは、心から好きだと言えるものでなければいけないと思ってしまうことです。
もちろん、好きなことは大事です。
でも、「好き」が最初からはっきりしていないと、一歩も進めなくなってしまうことがあります。
キャリアは、好きだけで決まるものではありません。
できること。
人に喜ばれること。
苦ではないこと。
続けられそうなこと。
自分が大切にしたい価値観に合っていること。
そうしたものが重なり合って、少しずつ形になっていきます。
たとえば、後輩に教えるのが自然だった。
チームを整える役割は苦ではなかった。
人の相談に乗る時間は嫌いではなかった。
準備や分析を丁寧にやるのが得意だった。
こうしたことも、十分に “次の道” のヒントになります。
アスリートが「競技以外で好きなことがない」と悩み考える姿を見たときに、こう思いました。
本当は何もないのではなく、好きという言葉に当てはまらないだけで、向いていることや活かせることは、すでにたくさんあるのだと。
「何がやりたいか」だけを自分に問うと、苦しくなることがあります。
その代わりに、こんな問いを立ててみてください。
競技の中で、どんな役割は苦ではなかったか。
どんな時間は自然に取り組めたか。
誰の役に立てたとき、やりがいを感じたか。
どんな関わり方をしているとき、自分らしかったか。
これなら、少し答えやすくなります。
やりたいことは、いきなり空から落ちてくるものではありません。
自分の経験を振り返りながら、少しずつ輪郭が見えてくるものです。
先ずは、焦らなずに、問いの立て方を変えてみてください。
それが、止まっていた心を動かす最初の一歩になります。
6. 「やりたいことがない」ときこそ、自分の未来を考え直すチャンス
もし今、引退後にやりたいことが見つからなくても、それは何もないという意味ではありません。
まだ整理されていないだけです。
まだ言葉になっていないだけです。
競技に本気で向き合ってきた時間は、必ずあなたの中に残っています。
継続してきた力。
耐えてきた力。
支えてきた力。
立て直してきた力。
それらは、競技の外でも必ず意味を持ちます。
だから、今すぐ完璧な答えを出そうとしなくていい。
少しずつでいい。
外の世界を知る。
自分の経験を振り返る。
信頼できる人と話す。
その積み重ねの中で、未来は少しずつ見えてきます。
“やりたいことがない” という悩みは、止まっている証ではなく、
自分を知り直す入口なのかもしれません。
私は、そう思って、これからもキャリア支援の活動を続けてまいります。


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